【幽白ギアス】序

※【幽蔵×スザルル】コードギアス、スザルルとのクロスオーバー。トチ狂ってました。ガチなスザルルは別所に。



 それはあらゆる次元に通じながらいずれの次元にも属さぬ中庸の次元、いずことも知れぬ場所にある世界。そこではさまざまな思慕が思索が欲望が都合が入り交じりながら共存している。

 いつからとは知れず、彼らが足を踏み入れたのは、そんな場所なのであった。


 燦々と降り注ぐ陽光を生い茂る木々が和らげてくれる木漏れ日のなか、ふたりがずいぶん歩いたのちに林の切れ目に見出したのは、いかにも別荘然としたたたずまいの住宅であった。天然の木目を活かしたログハウス、玄関のポーチへ至る階段や窓枠は白く塗られてこぢんまりと清潔な印象を与える。広々と取られたガーデンはちょっとしたスポーツや土いじりが楽しめそうな広さがあり、そのむこうにはなかなかに大きなウッドデッキ。さらに奥には砂浜、そして青い碧い海。

 林と海の、緑と青の、境界にこの別荘は建つのだ。これから長期休暇をここで過ごそうというふたりの胸に、この建物は安堵と期待をもたらした。良き休暇を過ごせそうだという安らぎと、ここで過ごすふたりの時間はいったいどんなめくるめくものになるであろうかというときめきと。

「いいんじゃない、なかなか」

「や、すごく良いだろ、これ。中も良いんだろ?」

「しっかりした管理人さんだって話だから、たぶん」

「早く入ろうぜ、楽しみ」

「ちょっと街から歩くかな。貸し自転車でも探そうか」

「走ればすぐだろ。鍵は? 鍵、早く開けてください」

「ちょっと待って、今。……あ。ねえ、あれ」

 ふたりが視線を向けたのは、彼らが先刻やってきた道だ。二台の自転車が前かごに荷物を満載し、それでも足りぬのか一台はハンドルの両側に大きなビニール袋をひとつずつ下げている。

 彼らの別荘のとなりに、十分なプライヴァシーを確保する距離でありながら寄り添うように、もうひとつ別荘がある。道はその建物の前で切れているから、この道を来るとなると自転車のふたりは隣の棟の住人なのだろう。玄関口にいた彼らはひとまず荷物を置き、道に出た。先方も彼らの姿を見つけていたのだろう、二台の自転車はふたりの前になめらかに停止した。

「こんにちは。おとなりの方ですか?」

「ええ。今着かれたばかりなんですか」

「そうです、まだ鍵も開けていなくて。不案内なので、ご迷惑でなければいろいろと教えてくださいね」

「俺たちも今朝着いたばかりなんです。今、買い出しに行ってきたところで」

「大変な荷物ですね。特にそちらの彼、そんなに大量だとハンドルが利かないんでは」

「こいつはなにせ馬鹿力なので、ご心配には及びません。長期滞在の予定なので、調味料から何から必要だということで、こんなことになりました」

「ああ、長期でいらっしゃるんですか。オレたちもその予定なんですよ、じゃあ、しばらくおとなりさんということで、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ。……ご夫婦でいらっしゃる?」

「え、と」

「まだ籍は入れてねーんだけど、そんなもんす。ヨロシク!」

「だ、そうです。最近ふたりして働きすぎなので、たまにはゆっくりした時間を持とうということで。そちらは、お友達同士なのかな?」

「……ええ。そうです」

「僕たちも最近、大きなイベントを終わらせたんです。息抜きでもしようということになって」

「ここは良い場所ですね、自然が多くて、心が洗われるようで。お互い、良い休暇を過ごしましょう」

「ええ、良い休暇を」


「ルルーシュ、良かったね、おとなり、良いひとそうで。仲良さそうだったよね、もうすぐ結婚なのかなあ」

「……」

「なんだい、その眉間の皺。心配してるの、僕たちのこと感づかれたんじゃないじゃって? そりゃ確かにここ、隣とあまり距離がないのは問題だけど、あのひとたちなら大丈夫だよ、きっと」

「……」

「良いご夫婦そうじゃないか」

「……スザク。あの奥さんの一人称、『オレ』だったんだが」

「……え。すごい美人だったよ?」

「あの奥さん、胸元も腰も大変スレンダーだったんだが」

「ルルーシュもスレンダーだよ?」

「…………」

「…………すごい美人だったけど、男のひとなのかなあ」

「なんだ。スザク。おまえ、ああいうのが好みなのか」

「美人だと思っただけで、僕の好みはルルーシュだよ」

「なっ……おまっ……言ってろ!」


「かわいい男の子たちだったねえ」

「とくに黒髪のほう、美人だったなあ。おまえほどじゃないけどさ」

「あの子たぶんそう言われても喜ばない子だよ、男の子だって意識が強いと思うから、本人に言っちゃだめだよ」

「おまえの洞察力ってちょっとこわいぐらいです蔵馬サン」

「お付き合いしたてなのかなあ、ういういしいよねえ。かわいいよねえ」

「おとなりをいじってばっかでオレのこと忘れたりしないでね、蔵馬ちゃん」

「やだなあ幽助、オレにはあなただけだよ。あなたがオレのすべてだよ」


 刹那のごとき巡り会いに永久の絆が生ずることもある。

 となりあわせの一対と一対、彼らはこの地にいかなる物語を刻むのか。

 

〈了〉

2008.12.23

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